少女外道(皆川博子)
『少女外道』
梅雨に入る前にきてくれるはずだった葉次が腰を痛めたとかで、庭木の手入れをしないままに夏となった。
『巻鶴トサカの一週間』
寿司を食べながら焼き上がるのを待つというのは、なかなかにブラックな情景ではないかと彼は思うのだが、これが一般的な風習になっているようだ。
『隠り沼の』
母に疎まれているとはっきり感じるようになったのは、いつごろか。きっかけはたぶん、あの日の集会の後だ。それ以前にも薄々と感じてはいた……ような気がする。
『有翼日輪』
目的もなく歩いていた。歩くことが心地よかった。
『標本箱』
「『標本箱』おぼえている?」と聞かれ、とっさに思い浮かんだのは、薬品のにおいのする理科室だった。骨格標本。いいえ、あれは、箱じゃない。
『アンティゴネ』
通学班の集合場所になっている提灯屋の前でトラックは停まった。
『祝祭』
雑草の茂みをわけて歩いていた。あるかないかの風は、汐の香をわずかに含んでいる。
短編は長編よりさらに忘れてしまいがちなので、思い出すきっかけになればと一段落目だけ書き写してみたけど、さて一段落目が物語全体の記憶を呼び起こすかどうかというと、そういうのもあるしそうじゃないのもある。というかんじ。
皆川さんの短編集は初めてだったのだけどとても好みだった。まっとうを自認する人たちには蔑まれ無視される、甘美な一瞬。
一番好きなのは 『巻鶴トサカの一週間』。タイトルも一行目も物語もいかしている。